2016年10月05日

世界唯一の被爆国である日本は、壊滅的な打撃を受けた戦後の国難から驚異的な力を発揮し、世界でも類のない繁栄を遂げた。東日本大震災を始めこれまで日本が経済、政治、社会分野で経験したさまざまな出来事は、他の国々がこれから好むと好まざるとにかかわらず経験するであろう事柄でもある。
例えば、中国やインドではかっての日本がそうであったように、高度成長の陰で既に、大気汚染や水質汚染などの公害問題が深刻な社会問題化している。
つまり、多くの国々が、結果として日本の歩んだ道をトレースしており、日本は「課題先進国」ともいうべき存在である。
日本パブリックリレーションズ研究所の井之上喬所長は、日本が他国の新しい国家づくりの指標となり得るさまざまな体験や知見を「ジャパン・モデル:The Japan Model」としてとして提唱しており、ここではその概要を紹介する。

「ジャパン・モデル」を世界に提示

前東京大学総長の小宮山宏氏によると、以前は世界一の石油産出国で輸出国でもあったアメリカが、いまや60%以上を輸入に頼っているとしている。そして、新興国中国やインドではかっての日本がそうであったように、高度成長の陰で大気汚染や水質汚染などの公害問題が深刻な社会問題化している。つまり、アメリカのような先進国に限らず多くの国々が、結果として日本の歩んだ道をトレースしており、同氏はその意味において日本を、「課題先進国」と位置付け、課題先進国にはその課題を解決することが求められるとしている。さらに、課題があるということは、「必要は発明の母」の言葉が示すようにチャンスでもあり、そうした意味で日本の「国際戦略」は、「課題解決先進国」を目指していくことにあると主張している。この考えは、井之上所長が提唱するジャパン・モデルを構築するベースとなっている。

日本は世界で最初に原爆の被害にあった国ですが、広島、長崎の悲劇を世界が共有できているからこそ、戦後一度も核戦争は起きていない。今回の福島事故もチェルノブイリと異なりアクティブな原発4機が地震と津波で制御不能になりそれをどう復旧させるか、これまで体験したことのないチャレンジを行っている。他国と共有できる要素を抱合していることがジャパン・モデルには示されなければならないと考えている。
日本は220年に及ぶ鎖国の後に西欧文明を取りいれるために開国し、西欧の列強に追いつき追い越すために多くの大胆な改革を行い、時には行き過ぎることがあってもその手綱を緩めることはなかった。この日本の明治維新からの発展については、多くの途上国が手本とし、成長の目的とするに至っている。しかし欧米の帝国主義モデルを後追いした結果、第二次大戦では近隣諸国を巻き込み不幸な結果をもたすこととなった。悲惨な戦争経験を通して物事は武力では解決しないことを日本人は学んだのである。日本は戦争の放棄を謳った「平和憲法」を保持している唯一の国。

国難に直面したときに日本が驚異的な力を発揮することは、戦後の日本の繁栄を見れば説明がつこう。ひたすら経済の効率化と経済目標を達成するために科学技術は急速に発展することとなった。原子力もそのひとつ。原油をほぼ100%輸入に頼る日本に石油に替わるエネルギー開発に残された選択肢は限られており、1970年代の2回にわたる石油ショックを経験し、日本は原子力発電の導入の積極策に踏み切った。

マグニチュード9.0と世界でも最大級の規模をもって東日本を突如襲った地震。そして日本観測史上最大の遡上高38.9m(岩手県宮古市の重茂半島)を記録した大津波に加え、チェルノブイリと同様に「レベル7」と評価された第二次災害ともいうべき福島原発事故。最新の科学技術をもってしても自然の強大な脅威の前には制御不能なシステムでしかないことを思い知らされたのです。
なぜ世界唯一の被爆国である日本で起きたのでしょうか、現在非核保有国として原子力の平和利用しか考えていない日本になぜ今回のような大惨事がもたらされたのか?そのことを考えたときに何か目に見えない力が日本と日本人を通して、われわれ人類の未来に警告を発しているのではないかとの強い思いが、The Japan Modelの構築を促したと井之上所長は語っている。
福島原発問題は、人類に大きな問題解決を迫ることになる。それは脱原発、脱CO2(脱石油)を
加速させること。代替エネルギーの開発を喫緊の課題とし、あらゆる英知を結集し、太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、水素などの再生可能なグリーン・エネルギー開発に注力し、この震災を通して日本が世界の最先端を行くグリーン・エネルギー国家に新しく生まれ変わる最大のチャンスとしなければならない。それがこの災害で亡くなった方々をはじめ多くの被災者の方々、また人類に対する私たちの責任だと考える。

ジャパン・モデルを構成するキー・ファクターには、図に示されるように日本が今回の地震災害に対し取り組んでいることをはじめ、世界唯一の被爆国、平和憲法国、高齢化問題に直面している国、環境問題への取り組みと省エネ先進国、これらによるソフトパワー保持国などが挙げられる。

図:「ジャパン・モデル(The Japan Model)」の概要

Japan Model構築のベースとなる考え方とその背景

Japan Modelを構成するキー・ファクター

 

日本は人類がいまだ体験したことのない領域に入ろうとしている。私たちは、3・11に日本で起こった歴史上類を見ない大災害の経験を世界に正しく伝えなければなりません。また、世界の多くの国々や人々から受けた温かい支援や励まし、そして被災者の高い精神性や行動を賞賛する世界から多くの声があった。こうした日本独自の土壌や歴史が育んだ精神文化と他の追従を許さない優れたな科学技術との融合から生みだされる国家レベルの新たな戦略モデルこそが「ジャパン・モデル(The Japan Model)」である。

私たちには何よりもこの素晴らしい地球を、子孫に残していく責務がある。日本および日本人が経験してきたさまざまな取り組みやソリューションを「ジャパン・モデル」として構築し、パブリック・リレーションズ(PR)の手法を通して広く世界に提示し、この責務を果たしていくことはPR専門家である私たちの役割であるといえる。